競売になると、価格はどれだけ下がるのか
公開日: 2026-08-19
住宅ローンの返済が滞ると、最終的に競売という手続きに進みます。よく「競売は市場価格より安くなる」と言われますが、実際にどれだけ違うのかを示した数字はあまり公開されていません。ここでは国土交通省の取引価格情報のうち、「調停・競売等」の事情が記録された成約875件を抜き出し、事情の記録がない通常取引と都県別に比較しました。
データ:裁判所の手続きを伴う取引は、通常取引と何%違うか
国土交通省は取引価格情報に「取引の事情等」という欄を持ち、調停や競売を伴った取引を記録しています。この区分の成約㎡単価を、事情の記録がない通常取引と都県ごとに比べました。
「調停・競売等」を伴う取引の㎡単価は、都県平均で通常取引より−57%
| 都県 | 取引件数 | 調停・競売等の㎡単価 | 通常取引との比較 |
|---|---|---|---|
| 埼玉県 | 182 | 89,272円/㎡ | 通常 285,714円/㎡(−69%) |
| 神奈川県 | 170 | 163,148円/㎡ | 通常 410,714円/㎡(−60%) |
| 愛知県 | 133 | 94,286円/㎡ | 通常 235,714円/㎡(−60%) |
| 東京都 | 110 | 400,000円/㎡ | 通常 857,143円/㎡(−53%) |
| 千葉県 | 99 | 109,677円/㎡ | 通常 243,478円/㎡(−55%) |
| 岐阜県 | 83 | 34,286円/㎡ | 通常 64,286円/㎡(−47%) |
| 静岡県 | 80 | 34,302円/㎡ | 通常 115,076円/㎡(−70%) |
| 三重県 | 72 | 48,913円/㎡ | 通常 71,429円/㎡(−32%) |
| 京都府 | 50 | 106,548円/㎡ | 通常 297,297円/㎡(−64%) |
- 9都府県すべてで、調停・競売等を伴う取引は通常取引を下回りました。差は都県によって−37%から−70%まで幅がありますが、方向は例外なく同じです。
- この差のすべてが手続きによるものではありません。競売にかかる物件は、そもそも修繕が行き届いていない、借地・共有・再建築不可などの事情を抱えているなど、価格が下がる要因を複数持っていることが多いためです。
- それでも、手続きが進むほど売主が価格の主導権を失うことは確かです。任意売却は「通常の売買として市場で買主を探す」方法であり、この枠から出られるかどうかが分かれ目になります。
※ 戸建て・マンションが対象。「調停・競売等」は国土交通省が取引の事情等として記録した区分で、競売だけを指すものではありません。物件の状態や立地の違いも差に含まれるため、すべてが手続きによる差ではない点にご注意ください。
対象期間: 2025年 第1四半期〜2026年 第1四半期/集計対象 979件。 中央値は、条件に当てはまる取引を価格順に並べたときのちょうど中央の値です。 個別の物件の価格ではなく、確定的な査定額でもありません。
出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ」不動産価格(取引価格情報)(当サイトが条件で絞り込み集計。加工方法は本文に明記)
競売で価格が下がる仕組み
競売の売却基準価額は、裁判所が選任した評価人の評価に基づいて決まります。この評価には、通常の市場価格から一定の減価が行われます。買受人は内覧ができないこと(占有者がいる場合は室内を確認できない)、引渡しを受けるために追加の手続きが必要になる場合があること、契約不適合責任の追及ができないことなど、通常の売買にはないリスクを引き受けるためです。
さらに実際の入札では、この売却基準価額を基準に買受人が採算を計算します。買受人の多くは転売や賃貸運用を前提とする事業者で、その利益とリスク分を差し引いた金額で入札します。結果として、市場で普通に売った場合の価格からは距離が生まれます。
任意売却との違いは「誰が買主を探すか」
任意売却は、債権者(抵当権者)の同意を得たうえで、通常の売買として市場で買主を探す方法です。買主は自宅として住む個人であることも多く、内覧もできます。つまり競売のような減価要因が働きません。上のデータの差は、この違いを反映しています。
ただし任意売却が成立するには条件があります。抵当権者全員が売却代金の配分に同意すること、抵当権を抹消できる見込みが立つこと、そして開札期日より前に決済を終えられる日程が組めることです。特に3つ目は時間の問題で、手続きが進むほど選択肢が狭まります。
| 競売 | 任意売却 | |
|---|---|---|
| 買主 | 主に事業者(内覧なしで入札) | 一般の購入者を含む(内覧あり) |
| 価格水準 | 減価を織り込んだ入札 | 通常の売買として成立 |
| 引渡し時期 | 手続きの日程に従う | 買主と調整できる |
| 近隣に知られるか | 公告・現況調査で知られやすい | 通常の売却として進められる |
| 引越費用 | 自己負担 | 債権者の判断で代金から控除される場合がある |
残された時間が価格を決める
滞納が始まってから競売の開札までは、概ね1年から1年半です。この間のどこにいるかで、選べる手段が変わります。滞納が3か月以内であれば返済条件の変更を相談する余地があり、期限の利益を失った後でも任意売却の準備に入る時間があります。競売の申立てがされ、現況調査や期間入札の公告まで進むと、残り時間は急速に減ります。
重要なのは、どの段階でも「何もしない」が最も不利な選択だという点です。競売は放置していても手続きが進み、開札日を迎えます。上のデータが示す価格差は、動いた場合と動かなかった場合の差でもあります。
- 滞納1〜3か月:督促・催告。返済条件の変更を相談できる段階
- 滞納3〜6か月:期限の利益喪失・代位弁済。任意売却の準備に入る適時
- 競売申立て:差押えの登記がつく。任意売却はまだ可能(債権者の同意が前提)
- 現況調査・公告:情報が公開される。残り時間が短い
- 開札:買受人が決まる。原則ここで終了
売却後も残る債務について
任意売却でも競売でも、売却代金で足りなかった残債は消えません。無担保の債権として残り、債権者との分割弁済の協議になります。ここで効いてくるのが売却価格です。高く売れた分だけ残る債務が小さくなります。上のデータの差は、そのまま「売却後に背負う金額の差」でもあります。
残債の金額が大きく返済の見込みが立たない場合は、個人再生や自己破産といった債務整理が選択肢になります。これは弁護士の領域で、不動産の売却と並行して相談すべき事柄です。
よくある質問
- Q. 競売の開札日が決まっていますが、まだ任意売却はできますか。
- A. 制度上は開札の前日まで取下げが可能ですが、実務では決済までの日程を確保する必要があるため、入札開始前に買主と条件がまとまっていることが現実的な条件になります。残り時間が短いほど選択肢は限られます。
- Q. 任意売却をすると、必ず高く売れますか。
- A. 必ずではありません。物件の状態や立地の影響は同じように受けます。ただし内覧ができ、一般の購入者が買主になり得る点で、競売の減価要因が働きません。データが示す差の大半はこの構造によるものです。
- Q. 家族や近隣に知られずに進められますか。
- A. 任意売却は通常の売買として進むため、競売の公告や現況調査に比べて知られにくい方法です。広告を出さずに買主を探す方法もあります。ただし完全に知られない保証はありません。
※ 本記事の数字は、国土交通省「不動産情報ライブラリ」の取引価格情報を当サイトが条件で絞り込んで集計したものです。「調停・競売等」は国土交通省が取引の事情等として記録した区分で、競売のみを指すものではありません。物件の状態や立地の違いも差に含まれるため、差のすべてが手続きによるものではありません。競売の進行速度は裁判所や事件により異なり、任意売却の可否は債権者の判断によります。債務整理を含む法的判断は弁護士にご相談ください。
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